試奏するのって何のため?

 

 試奏が終わったら店員さんからかけられるお約束の言葉、「どうでしたか?」。いつもは割と当たり障りのない感想を言うことが多かったが、その日何となく口にした返事は「グラデーションがリニアで好きですね」だった。
 先日、浅草の楽器店であるJapan Percussion Centerに行ってきた。店員さんのinstagramに投稿されていたスネアドラムがなんか気になったから試奏をしに。あと消耗品も買いたかった。

 試奏をするとき、まずは大まかなスペックを把握する。今回のスネアの場合は以下のような感じ。

  • お店のポップに書いてあったこと
    • 材質はイチイの木
    • 10ply
  • 見た目で分かったこと
    • レインフォースメント無し
    • シングルフランジフープ
    • ダブルエンドラグ
    • ガスケットは樹脂
    • ベアリングエッジはたぶん30度
    • ラッカーかオイル仕上げっぽい(塗装は詳しくないです……)
    • ベントホールは一般的な大きさのものが一つ
    • 20本コイルのスネアワイヤー
    • ポリ素材のベルトでスネアワイヤーをセット
  • 触らせてもらって分かったこと
    • 結構軽い

 そして簡単にチューニングを整えて、演奏しながら次の内容を確認する。

  • 叩く位置
    • 打面中央
    • スネアワイヤーの上をなぞるように、中心から縁に向かって
    • スネアワイヤーと直行するように、中心から縁に向かって
  • 確認項目
    • 全体的な音色の印象
    • 叩く強さに対しての音量
    • 音の立ち上がりの速さ
    • ヘッドとスネアワイヤーの音量バランス
    • スネアワイヤーが反応する最小のベロシティ
    • 倍音の量と長さ

 これらを確認したうえでの感想が、冒頭に書いた「グラデーションがリニアで好きですね」だった。これをかみ砕くと、「打面中央から縁に向かって同じベロシティで叩いていったとき、『ヘッドとスネアワイヤーの音量バランス』と『倍音の量と長さ』の変化量が、打面中央から叩いた位置までの距離と綺麗に対応している」となる。言い方を変えると、『ヘッドとスネアワイヤーの音量バランス』と『倍音の量と長さ』について、『中央を叩いた時の音』と『縁ぎりぎりを叩いた時の音』を念頭に置くと、中央からどれだけ離れた位置を叩くかを考えるだけでどんな音が鳴るか予想がつく、となる。
 基本的に、スネアワイヤーの音量は中央を叩くほど大きく、縁を叩くほど小さい。倍音の量と長さは中央を叩くほど減って短くなり、縁を叩くほど多く長くなる。中央付近にはいわゆる「スイートスポット」があって、ある程度の範囲ではおおむね一定の音が鳴るが、そこを過ぎると縁に向かって音色が変わっていく。この変化の仕方がリニア(直線的)だと、出したい音のイメージとその音が鳴る打点が結びつきやすいので、演奏上のストレスが減る。その点で、「グラデーションがリニア」なスネアは私の好みだ。
 そして、私が試奏をする理由はここまで述べたところにある。つまり、「演奏の変化に対して、音がどのように変化していくか」を知りたくて試奏をする。これはスネアドラムに限らず、ドラムセットにもシンバルにも言える。これは、試奏動画を見ただけではなかなか把握できない。この変化の重要性を理解して、これが伝わるように試奏を工夫している動画はいくらかあるものの、やはり自分で演奏すると解像度がとても高くなる。
 今回はスネア単体の試奏だが、ドラムセットに組み込んで演奏するとまた違った印象になることが多い。思ったより音量が出ていなかったり、気持ちのいい倍音が他の楽器の音に紛れて消えたりと印象が悪くなることもあれば、バスドラムとのコントラストが光ったり、シンバルとの高域のマッチングが良かったりと印象が良くなることもある。
 シンバルの試奏は特に、自分が今使っているセットにどう組み込むのか、違和感なく馴染むかが重要になるので、私はほぼ必ず自分のシンバルセットを持参してマッチングしてから購入する。これをしないのは新しくセットを組む時と、圧倒的な懐の深さを持っているシンバルを買う時くらいだ。ただ、SABIANはシンバル各々のトーンが重要なイメージがあり、繋がりというよりはパッチワークを楽しむ感覚があるので、比較的単体の音だけで買ってしまうことも多い。実際、よさそうな新製品が出たときは割と手軽に購入し、「さてどんなことに使えるかな」と新しいおもちゃ気分で楽しむこともよくある。

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